−私の原点は室内楽なんです−
 
まずはお名前の表記から...。植村さんは活動形態によって「Kao」という表記で ご自分のソロやクラシックとジャズの融合ユニット“ミングル”で活動されていますが、イリス弦楽四重奏団(以下、イリス)の場合は植村薫という表記でいいんですか?
ミュージカルのお仕事やミングルの時はニックネームでもあるカオと呼ばれていますので、知名度的にはカオの方が通りが良いと思います。ですが、クラシックのお仕事やソロCDを出す前までは本名の植村薫ですべてやっていますので、時々「Kao」と「植村薫」が別人だと思ってらっしゃる人に出会います。一度「KaoというヴァイオリニストのCDを買ったことがあります」と言われて、思わず「それ、私です!」って...(笑)。
 
ヴァイオリンをはじめたきっかけは?
ヴァイオリンは4歳から習っています。小さい頃から音が鳴るとそれに合わせて物を叩いたり、悲しい曲が流れていたら泣き出して悲しい顔をしたりしていたのを母親が見ていて、きっと音楽が好きなんだなと思ったらしく、たまたま家の近くに音楽教室があったのでそこで情操教育の一環としてヴァイオリンを習わせてもらいました。
 
音楽的な学歴はいつから始まったんですか?
最初は普通に公立の小学校に通っていたのですが、あまりにも音楽好きだったのを母が見て「そんなに音楽が好きなら...」と、小学3年生の時に編入というかたちで国立(くにたち)音楽大学の附属小学校に入りました。実はその編入時に、試験曲をあまりにも練習し過ぎてすっかり飽きてしまい、試験当日には課題曲以外の曲を弾いてしまったんです(爆)。だから絶対ダメだろうなと諦めていたんですが、受かってしまいました!
 
 
 
音楽小学校というのは普通の人にはあまりピンと来ないと思いますが、実際にはどんな感じなんですか?
例えば、義務教育の授業以外にレッスンを受けるために、教室を出入りしても良かったんですよ。授業中でも中抜けしてレッスンに行き、それが終わったらまた授業に戻るという。休み時間も教室にあるピアノで歌謡曲などを皆で連弾で演奏したり歌ったりして遊んだり、四六時中音楽が身近にあって楽しんでいた感じです。学校が楽しくて仕方なかったですね。
 
それまでにピアノのような英才教育は受けたんですか?
いえ、最初からヴァイオリンだったので、ピアノは国立の小学校に入ってから一生懸命練習して皆に追いつきました。それまで耳で聴いて覚えていた音階が、ピアノを習うことによって、ようやく「この音がラの音か」と階名でわかるようになりました。それでまた楽しくなっちゃって...。
 
で、結局大学院まで行ったんですよね?
大学を卒業する時は某オーケストラのテストを受けて団員になるか、大学院に行って弦楽四重奏を専門に勉強する室内楽を専攻するか迷いました。結局少人数での合奏により魅力を感じていたので、芸大の大学院に進みました。大学院ではずっとカルテット専攻で授業を受けていましたし、その頃同時に引き受けていたミュージカルのお仕事も弦楽四重奏で弾くものでしたので、イリスの原点がそのへんにあったと言えるかもしれませんね。
 
学生からプロの演奏家になったいきさつは?
大学に入った頃から先輩の代役で、よく小さな編成でのエキストラのお仕事などをやらせて頂きました。人前で弾く喜びを体験しながら、さらにアルバイト代まで頂けるとあって、大変光栄でした。さらにミュージカルやオペラのお仕事を何度かやらせて頂いたりしているうちに、音楽演奏だけでは成り立たない、演劇や美術、ダンス、舞台との総合芸術というものにすっかり魅せられてしまいました。そうやっていつの間にか、劇団四季のオーケストラメンバーの一員としてピット仕事をするようになり、それがきっかけで今のポジションまで来てしまいました。
 
では今の仕事を簡単に説明して下さい。
宝塚や東宝ミュージカルの作品を中心としたミュージカルのオーケストラのコンサート・マスターをやらせて頂いてます。また、ヴァイオリン、ピアノ、11種類の木管楽器という3人の組み合わせによる「ミングル」という、クラシックとジャズの融合ユニットの活動も定期的に行っています。その他に今回お世話になったイリスとしてかれこれ20年間活動しています。“人と合わせ、奏でることの喜び”が感じられる音楽を演奏することが大好きなんです。
 
ソロでCDも出されていますよね?
はい。ミュージカルやオペラを演奏している時にオーケストラピットの虜になりましたが、そこで伴奏の一部を自分が演奏していた時に感じた雰囲気が1枚のCDで味わえるものが世の中にはないということが分かったので、だったら自分で作っちゃおうと思い制作しました。舞台ではメロディは歌手の方が歌うので、自分でメロディを弾くにあたり違う味付けにして弾きたかったという願望を叶えたのが、Kaoのソロの2枚のCD「Overture」と「FROM THE PIT」です。
 
  

 
結成のきっかけは?
1992年の冬に山形県長井市にある「やませ蔵美術館」という、お蔵を改造した美術館のクリスマスコンサートに室内楽で演奏するために、ヴィオラの後藤さんを中心に急遽組まれたのがきっかけです。ピアノがない場所なのでカルテットで、というのが今となってはラッキーでした。イリスは元々は日本フィルハーモニー交響楽団のメンバー3人、プラス私で構成されていたのですが、その中に大学時代私と一緒に4年間カルテットを組んでいた後輩がいて、ファースト・ヴァイオリンのポジションだけ外部の私に声がかかったのです。
 
その1回限りの結成から一転、その後も続いたわけは?
一度やってみたら、お互いにとても良い感触だったということで、また一緒にやりたいという希望は持っていました。'93年の夏にヴィオラの後藤さんの実家近く(北海道)で里帰りコンサートをカルテットで演奏しようという話になり、それ以来ずっと継続しているんです。後藤さんの北海道での同級生が中心となってコンサートスタッフをして下さり、多大なるサポート体制の中で夏の北海道、そして冬は後藤さんとお蔵の繋がりから山形というのが最初の10年間くらいの定番でした。イリス内の「広報」は私ですが、「外交」はヴィオラの後藤さんです。
 
では年間を通してカルテットで演奏しているのではなく、毎年決まった時にだけ集まるという感じですか?
そうですね、言うなれば期間限定の活動形態です。日本フィルのメンバーは年間を通して本番や旅仕事の回数が多く多忙ですし、ヴァイオリンの私たち2名もフリーで活動しているのでバラバラなスケジュールで、全員の予定を合わせるのがとても難しいので、毎年早めにコンサートのスケジュールだけ決めて全員がそれに合わせるように努力しています。
 
期間限定の活動とはいえ、20年も続いた秘訣はなんですか?
「後藤さんの里帰り」に皆が合わせるということですね(笑)。皆、普段それぞれ違った環境の下で仕事をしていて、でもカルテットに寄せる思いは皆それぞれとても強く大事に考えている。だから、なんとかやりくりして集まって合奏したい、という意識がずっと頭にあるから続いているんだと思います。コンサートのメイン開催地は北海道の深川から美唄に変わりましたが、美唄では地元のピアニストとの共演もあり、今では夏の風物詩のようにもなって来ています。
 
では普段はお互いに連絡を取ったりはしていないのですか?
日フィル組は一緒の仕事で毎日一緒ですし、私とセカンド・ヴァイオリンの大谷さんはミュージカルのお仕事などで一緒でしたが、いつも一緒にいるというわけでもないので、適度な距離感があります。20年も続いた理由は、この距離感があったおかげかもしれませんね(笑)。
 
ひとことで20年と言っていますが、コンサート活動を20年間続けて来られたというのは凄いですね?
これは私たち4人だけでは到底実現出来ないことです。その土地でコンサートをお膳立てして下さる方々や、当日のお手伝いをして下さるスタッフの方々がいらっしゃればこそ成立する話ですから!
 
そう考えたら、よく今回のレコーディングのスケジュールで4人が合いましたね?
話が本格化してから録音日を決めましたので、あれはもう偶然としか言えません(笑)。本当にたまたま日フィル組が休日だったんです。リハーサルをする時間が足りないかと思いましたが、あの時決行しておいて良かったと思います。実際には1日で録り終えてしまいましたからね。
 
イリスとして今後の展望は?
まずは期間限定としての活動の現状維持ですね。先程も言いましたが、ここまで続けて来られたのは地元の皆さんの協力があってからこそのものであり、この価値ある関係をいつまでも続けて行けたら嬉しいです。
 
 

 
今回のレコーディングにモーツァルトを選んだ理由は?
まず前提として時間が限られていましたので、自分たちがこれまでに演奏してきたレパートリーの中から選ぶべきだろうと思いました。打ち合わせをする中ではドヴォルザークの「アメリカ」やアンコール・ピースの小品集など、いろいろなアイデアが出ましたが、結果的に過去に演奏した回数が多いことと、CD1枚の中に他の作曲家の曲は入れずにモーツァルトの弦楽四重奏曲だけにしたかったということから、この「ディヴェルティメント 第1番 第2番 第3番」(俗にザルツブルク・シンフォニーと呼ばれる)に決めました。
 
結構ほんとにいろいろなアイデアが出ましたよね?
私はアンコール・ピースにこだわっていたんですよ。なぜなら、最初にイリスのCDを聴く時に、いきなり10数分もの大作を聴くよりも、2〜3分の小品で気軽に馴染んで欲しかったからです。でも見方を変えれば、モーツァルトの「ディヴェルティメント」も1楽章ごとはとても短いので、聴きやすいのではないかと思いました。
 
イリスの音楽の聴かせどころ、魅力はどんなところ?
日々一緒に演奏していて厳格な演奏を追求するような環境下に4人が一緒にいるわけではないので、久しぶりに再会した4人がその喜びを表現しているようにのびのびと演奏しているところが、明るく楽しげな音となっているんだと思います。音楽という言葉の通り、「音を楽しむ」というシンプルな雰囲気が伝わればいいなと思っています。
 
それは初心者にも優しいということでしょうか?
そう思われても良いと思います。特に子供たちに対しては、クラシック音楽に興味を持っていただくためのはじめの一歩になれればと思っています。
 
では最後に今後の目標などありましたらお聞かせ下さい。
室内楽っていうと、ちょっと敷居が高いように思われる方が多いと思いますが、全然そんなことはなく、むしろ生活に密着したところにこういう音楽があるんだよ、心地よいでしょう、聴きやすいでしょう、というようなことを伝えて行ければと思っています。室内楽の楽しみを伝道するのがイリスの役目であり、それが今後の目標だと思っています。
 
今日はありがとうございました。結成21年目も楽しみにしています!
 
 
2012年8月23日 吉祥寺にて (聞き手:ビジョン・クラシック)
 
イリス弦楽四重奏団 / モーツァルト:ディヴェルティメント 第1番 第2番 第3番
 
結成20周年にして初のアルバム・リリース!!
息の合った4つの楽器の会話が想像力をかきたててくれます。


 
<収録曲>
 
モーツァルト:ディヴェルティメント第1番 ニ長調 K.136
 
第1楽章 アレグロ ニ長調 4分の4拍子
第2楽章 アンダンテ ト長調 4分の3拍子
第3楽章 プレスト ニ長調 4分の2拍子
 
モーツァルト:ディヴェルティメント第2番 変ロ長調 K.137
 
第1楽章 アンダンテ 変ロ長調 4分の3拍子
第2楽章 アレグロ・ディ・モルト 変ロ長調 4分の4拍子
第3楽章 アレグロ・アッサイ 変ロ長調 8分の3拍子
 
モーツァルト:ディヴェルティメント第3番 へ長調 K.138
 
第1楽章 アレグロ ヘ長調 4分の4拍子
第2楽章 アンダンテ ハ長調 4分の3拍子
第3楽章 プレスト ヘ長調 4分の2拍子

 
[演奏者]
植村 薫 (第1ヴァイオリン)
大谷美佐子 (第2ヴァイオリン)
後藤悠仁 (ヴィオラ)
伊堂寺 聡 (チェロ)
 
VCCM-8120 
2,500円(税込み定価)
 



 
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